偏にきみと白い春
「音楽の素晴らしさ、おれが教えてやる」
あまりにも真剣なまなざしに、私は不覚にも、感動してしまったりして。彼を見ていたら、私まで泣きそうになってしまう。
自分でも本当に単純だと思う。今までこんなこと一度だってなかったのに、どうして彼の言葉はこんなにもすんなりと私の中に入り込んできてしまうのだろうかと不思議に思う。
けれどほんの少しだけ。彼を、高城領を、信じてみたくなったんだ。
「……わかった」
気づけば落ち葉が地面に落ちてゆくみたいにポロリと口から言葉が落ちていた。高城領が大きな目をさらにまんまるにして私を見る。
「そのかわり、高城領が言う音楽の素晴らしさ、見せてもらおうじゃない……!」
高城領が、いつもの笑顔を作った。「上等だ!」って声を張り上げて。
───音が、曲が、音楽が。
誰かの心に伝えることだってできる。
高城領の言葉は不思議だ。何故かすんなりと、私の心に響いてくる。信じたくなる。
ねえ、夕日って、こんなに赤かったんだね。青空と同じくらい、とっても綺麗だ。
私、たぶん昨日とは違う今日をスタートさせた。私の世界が変わっていくのかもしれないし、変わらないのかもしれない。そんなこと、まだわからないけれど。
今日という日を変えてくれたのは、紛れもなく高城領だ。