偏にきみと白い春

「あーもうテスト悪すぎー」
「てかアタシ、今回赤点確実だわ」
「それはヤバイって」


 派手なメイクをした、喋り方もこれまた派手な女の子たちの集団の声が耳の横を通り過ぎていく。

───うるさい。

 ただでさえ1時間目から音楽という最悪の授業日程に嫌気がさしているというのに、わざわざ大きな声の愚痴を聞きたくない。

 ガタリ、とわざと大きな音を立てて席を立った。私がそんなことをしたって何の影響力もないことはわかっているのだけれど。

 移動教室ほど面倒なモノはないと思う。移動が面倒くさいのもあるけれど、一緒に行く友達とやらが存在しない私にとっては尚更だ。それに、校舎の3階、いちばん端にある音楽室に行くのはムダな時間にしか思えない。


「……はあ」


 思わずためいきをつく。ひとりで歩くのにはもう慣れた。けれど、ひとりきりの廊下だからこそ、こんな盛大にため息を吐いたって聞いている人は誰もいないだろう。

 音楽が苦手教科だからっていうのもあるけれど、こんなに憂鬱な気分になっている原因は自分でわかりきってる。


───また、完璧じゃなかった。


 ポケットの中でぐちゃぐちゃに丸めた成績表を取り出して、親指でそれを軽く広げて見直してみる。

満点と90点台、加えて並ぶ順位は『1』ばかりの中、ひとつだけポツリと89点。順位は『2』。


……やっぱり、コイツが原因だ。


───音楽。私の最大の苦手教科。


 せっかく広げた成績表をまた丸めて、ポケットへとつっこんだ。喉元に広がった詰まったような悔しさと不安と情けなさ、そして怒りも一緒に飲み込んで。



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