偏にきみと白い春



「綾乃おはよーっ!」

「おはよう」


 今日も昨日と同じように下駄箱で出会う私と領。それはもう、タイミングぴったりでちょっとビックリしてしまう。


「お、今日はちゃんと返してくれるじゃん!」

「そりゃあ、おはようくらい返すよ」

「はは、なんか嬉しいなー」

「あのね、昨日。お母さんが……ご飯の時に、話しかけてくれたの」

「え、ホントに? なんて?」


 目を丸くして、まるで自分のことみたいに喜んでくれる領が私の顔を覗き込む。どうしてこんなことを話してしまうんだろうって自分でも不思議でたまらないけれど。


「部活のこと聞かれただけなんだけどね。でも嬉しかったんだ。……ありがとう。領のおかげだ」


 本当は、どうしても言いたかった。昨日からずっと。高城領に話さなきゃいけないって。……ううん、聞いてほしいって思ってた。

だって、こんなにも私の世界を変えるきっかけをくれたのは、まぎれもなく領だから。


「何言ってんだよー!? 綾乃が自分で行動した結果だろ? 俺は何にもしてないよ。綾乃が頑張ったからだ」


 二カッていつものように明るい笑顔を見せて、領が私の頭をクシャッと撫でた。

俺も嬉しい、って歩きながら笑う領。私は今まで、領のことを悪い風に勘違いしてたなあって今更思う。

 この人が周りに人気があって、人の中心にいるのは、きっと当たり前みたいなものなんだ。

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