偏にきみと白い春


「そーいえばさあ、俺今日用事があって途中でいなくなるからさ、怜とコーヘーと練習な? コーヘーがたぶんボーカルのこととか色々教えてくれるから!」

「そうなの? わかった。コウヘイって、優しいよね」


 ピタッて、領が歩みを止めた。
私も動く足を止めて後ろを振り返る。

 驚いた顔で固まってる領がおかしくて思わず笑ってしまったんだけれど、そんなことは気にも留めず領の表情は変わらない。


「……コウヘイ?」

「?……コウヘイがどうしたの?」

「……綾乃、いつからコウヘイって呼んでんの?」

「え……? あ、昨日帰りに会った時に、そう呼んでって言われたから……」


 私なんかが、やっぱり図々しかったかな。領が右手で頭をクシャッとして、足早に私を通り過ぎた。私はそれを追いかけるように後ろを歩く。


「ごめん、やっぱ馴れ馴れしいよね。私なんかが……」

「あー!違う違う。そーじゃなくて……。てか、ジュース買いに行かせた時かー。クッソあいつホントやることはえー…」


 領は頭を右手でクシャクシャかきながら、意味不明なことをブツブツと言いいながら振り返った。


「綾乃が他の男子のこと呼び捨てにしてるの聞いたの初めてだったから、ちょっとビックリしただけ。ゴメンな?」


 なんだ、そんなことか、と思わずホッとする。いつも笑顔の領が珍しく表情を歪めたのがちょっと怖かったんだ。

 ……謝る必要なんてないのに。そう思いながら領の隣に足を進める。
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