偏にきみと白い春


「てか、コーヘーって優しいかー?」

「え? うん。すごい優しいと思う。なんていうか……同じ匂いがするというか」

「ふーん……」



 自分で聞いてきたくせに、興味のなさそうな領。まあ、領は優しいを通り越しているけれど。そんなことは言わないでおく。



「やっぱ、やめたっ!俺、今日いなくなるのやめ!綾乃の練習は俺が見る!」



 うんうん、って頷きながら足を進める領。そんなにいきなり予定変えて大丈夫なの?って聞くと、ダイジョーブって返事が返ってきた。



「ほんと?なら、よかった。領がいるとほっとするし、楽しいから」

「……俺といると楽しい?」

「うん。すごく。世界が輝いて見える」

「……俺も」



 いやに真剣な声だったから、ふと私より少しだけ高い領を見上げた。

いつもの笑顔じゃなくて。もっと優しくて、もっと大切な何かを見るように、領が私を見てた。



「俺もだよ、綾乃」



 その表情が、なんだか少しくすぐったくて。胸の奥が、どくんと音を立てた。

< 55 / 175 >

この作品をシェア

pagetop