偏にきみと白い春
「……見た目こんなんだけど、バンドとベースのことだけは真面目に考えてんだよ、一応ね。初めて自分がやりたいと思ったことがベースだったから」
怜の横顔は綺麗だった。私は今ままで、多分こういう人たちを見下していた。
勉強が出来ることがすべてだって思い込んでいた。
でもきっと、違う。
好きなことをこうやって追いかけている怜は、本当に強くて素敵だと思った。私が馬鹿みたいに勉強していた間、きっと怜は馬鹿みたいにベースを弾いていたんだろう。
人の違いなんて、そんなものなんだ。何を大切にするか。何に時間をかけるか。親や先生の示す先がすべてだなんて誰が決めたんだろう。
「見てて、わかるよ。……私は、みんなが羨ましい。」
「……羨ましいって?」
「そこまで本気になれるものが、私にはないから」
怜が、歩いていた足を止める。
私は少し前で止まって、怜の方を振り返った。
「じゃーさ綾乃」
「うん…?」
「ウチらと本気になればいいじゃん?」
怜の目があまりにも真剣で、私はそこに、吸い込まれるんじゃないかって思った。それほどに、輝いていたんだ。
「ウチらと本気で、バンドやろう」
ああ、なんでかな。泣きそうだ。だってまるで、ドラマのワンシーンみたいなこんなこと。
私の人生で、こんな日が来るなんて、誰が予想できたんだろう。私さえ、信じることのなかった今日という日。
「……やりたい。私、はるとうたたねのみんなとバンド、本気でやりたい……!」
風が吹いて、私と怜の髪をさらった。
「期待してるよ、新人サン」
そう言った怜の顔は、まるで夜空に輝く星みたいに、すごく輝いて見えたんだ。