偏にきみと白い春



「おれには簡単すぎたよ先生ー」

「んーそうみたいだなー。高城はホント音楽だけ出来るみたいだからまいるよ」


 高城くんは嬉しそうに笑った。その会話を聞いていたクラスメイトが、「おまえ何点だったの?」と高城くんに尋ねると、彼は笑顔で「94点!」と返す。


「ちなみに高城が学年最高得点なー」


 クラス中にどよめきが起きる。私だってビックリだ。音楽と体育は出来るって豪語していた高城くんだけれど、まさか私より上の———『1位』をとっているだなんて思ってもみなかった。


「もー先生、そんな俺のこと褒めないでよっ」

「おまえ授業態度がよければ言う事ないんだけどなー」


 クラス中に笑いが起きる中、私は上手く笑うことができないでいた。いつもなら、周りが笑うタイミングに合わせてきちんと笑顔を作ることができるのに。


 笑えない。


だって、私よりずっとずっと努力なんてしていない彼に、私が欲しくてたまらないものを取られたんだもの。何でも簡単に手に入れてしまうような、そんな人のくせに、どうしてそんなところまで奪っていくの、って。

黒い感情が溢れて止まらない。




「えーっと、じゃあテストの話はここまでとして。
11月にある合唱コンのパート決めを今日はしようと思うんだけど」


 先生の声にみんなからブーイングの嵐が起こる。その声で我にかえってきちんと前を向く。

 合唱コン。ブーイングが起きるのも無理はない。

 間違いなくうちの高校の馬鹿げた行事ナンバーワン。中学生でも今時真面目になんてやりたがらない。みんなで心を一つに!なんてのがお決まり文句の合唱コンクール。正直アホかとも思ってしまう。誰が好んでそんなことをやりたいだなんて言うだろう。高校生のこんな時期に、クラスで合唱だなんて馬鹿馬鹿しいにもほどがある。


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