偏にきみと白い春
怜はちょっとだけ考える仕草をした後、再びガシッと私の肩へ腕を回した。
「綾乃はさー、きっとそーゆーの疎いんだろーけど、ウチらは綾乃のこと超歓迎してんだよ?」
「か、歓迎…?」
「あー、歓迎っつー言い方はヘンだよな。なんつーか、アレだよ。もうすでに、ウチらは綾乃のこと仲間だって思ってるってコト。モチロン、領も、コウヘイも。」
"仲間"。
その響きに、どくんと胸がなる。こんなに絆の強い3人の中に、突然混ざったのは私なのに。
どうして、こんなにも優しいんだろう。なんだか、涙が出てきそうだ。
人の優しさに、時々ひどく泣きたくなる。触れたことがないあたたかさに触れているからだ。
「……怜、ありがとう……」
「まーさ、ウチらは高1の時から3人でバンド組んでっから、それなりに絆みたいなもんもあるけどさ。今までボーカル探してきて、こんなにしっくり来る奴、綾乃が初めてなんだよ。モチロン、ボーカルとしてもだけど、メンバーとして、仲間として、な? 」
「……怜……」
ボーカルとして。メンバーとして、仲間として。誰かに必要とされている。"1"の文字がなくても、3人はちゃんと私のことを見てくれる。
たったそれだけのことが、こんなにも嬉しい。
「つーわけで! 女同士、隠し事はナシだぞ? 綾乃!」
「隠し事なんてないよ…!」
「ほーう? じゃあ、領と浩平どっち好きか言ってみ?」
「ええっ?! 話戻ってない?! ていうか、じゃあっておかしいし!」
「細かいコトは気にすんな。で? どーなの、綾乃」
腕を回しながら、私の顔を覗き込んでニヤニヤと笑っている怜。カラコンと長いまつげのせいでスゴイ目ヂカラだ。女の私でもドキドキしてしまう。
「もー! 2人とも友達! ていうか、怜がさっき仲間、って言ったじゃん……」
「そりゃ、そーだけど。なんだよー。せっかく綾乃から恋バナでも聞き出せるかと思ったのに」
「こ、恋なんてしたことないからわかんないよ…」
「は、マジ?」
「え、うん……」
怜は目を丸くさせた後、私から離れて前髪をかきあげた。
「はー、こんなピュアガールが現代にまだいるとはビックリ。こりゃアイツらもタイヘンだ」
なにそれ、って私が言うと、気にすんな、って怜はまた私の肩に腕を回した。そしてまた楽しそうに笑いながら。
「ま、いーや。ウチはあんたがどっちに転ぶか楽しみでしょーがないわ」
なんて言って、ギュっと肩を掴まれた。怜のこういう男っぽいところが好きだ。実際、怜本人も「女々しいヤツは女でも男でも大キライだから」と言っていたくらいだし。
それにしても、怜の言動は時たまよくわからない。
試しにあたしが右と左に転んで痛い思いをするところを想像してみたけど、やっぱり怜の言いたい事はさっぱりわかならなかった。