偏にきみと白い春



「はい、じゃ今日はコレでオワリー!明日は8時集合だからよろしくねー!」


領の元気な声を聞いて、見ていた楽譜から顔を上げた。領の部屋の時計の針は午後6時を指していた。

2人がハーゲンダッツを買って帰ってきて、私と怜はそれを有り難く頂いた。

その後は雑談しながらみんなで曲について話し合ったり。

最終的には、それぞれの担当分野にわかれた。私は、はるとうたたねがよくコピーするという人気バンドの歌詞とメロディを必死に覚えていたところだ。



「じゃあ、お邪魔しました」



領のお母さんは結局帰ってこなくて会えなかったけれど、きちんと玄関でそう頭を下げて領の家を出る。

領が「律儀!」って笑った。常識じゃないか。そんなに笑わなくてもいいのに。



「じゃあ解散なー。」
「おー、また明日」
「あ、バイバ…」



みんなに手を振ろうと言葉を言いかけたその時。突然、怜に肩をぐっとつかまれた。



「まちな」



顔を上げたら、フッて一瞬、何かたくらんでるような笑みを浮かべた怜がいて。



「あぶねーからどっちか送っててやれよ。いつもならウチが一緒に帰ってやるトコロだけど、あいにく今日は本屋よる予定があるカラさー」



ええ、怜ってばなに言ってるんだろう。 そんなの悪いし、私は別に1人で帰れるのに。

それを言葉にする前に、目の前の2人が顔を見合わせて、そして私たちの方に向きなおした。



「じゃ、俺が…」
「俺が行く!」


浩平の言葉に領の言葉が重なって、浩平は差し出そうとしていた手を引っ込めた。

怜がニヤリと笑って領を見た。



「じゃ、領行けば」

「しょーがないなあ、まあこう見えても俺紳士だからねー」



じゃ、行くよ綾乃、って。領は当たり前みたいに私の手を引いた。

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