偏にきみと白い春



「いらっしゃーいっ!お泊りセットは持ってきたー?!」


二カッといつものように白い歯を見せて笑う領が、元気にそう言い放ちながら玄関の扉を開けた。


夏休みの日々はあっという間に過ぎた。練習と、家に帰ってからの勉強。3人はそれに加えてバイトも。休みとはいえど、慌ただしい休日だ。


そしてやってきた、強化合宿の日。

今日から一泊2日、4人で領の家に泊る。目的は長時間練習を可能にすることと、親睦を深めること。両親が旅行に行っている間を狙って開催されるんだとか。



「てか、綾乃よく許してもらえたねー。大丈夫だった?」

「あ、うん。特に気にしてなかったから」

「そーなんだ」



浩平が意外そうにしているのも無理はないと思う。私の家の詳しい事情は、領しか知らない。多少は勘付いている部分もあるかもしれないけれど。

普通の"優等生"の親だったら、異性もいる合宿───外泊なんて、学校行事や申請があるもの以外許さないかもしれない。


でも、うちは違う。


そもそも、私なんかに興味なんてない。お父さんは私の事をもう気に留めもしないし、お母さんは勉強のことさえちゃんとしていれば何も言わない。

そんな、家族の形をした何か。もうずっと前から形を失いつつある、何か。




「じゃー午前中は2グループに別れよっか!」




領が、気を利かせたみたいにそう声を張り上げたから、私を含めた他の3人ともビクッと肩を震わせた。


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