偏にきみと白い春




「んじゃ、急ぐよ綾乃」



そう言って怜が見上げたのは、電車を乗り継いでやってきた、今時のオシャレ女子が集うショッピングビル。最近近くにできたんだってクラスの子が言っていたのを聞いたことがある。人気のファッションやコスメブランド、女の子が好きそうなカフェがそろっている。

本番まで数時間なのに大丈夫なのか尋ねると、領は笑って「もちろん!」と言ってくれた。本番前に練習しすぎるのもよくないんだとか。緊張しないように、こうして楽しいことをして過ごすことが多いみたい。




「綾乃は綺麗な黒髪だから、黒がいいと思ウンだよねー。綾乃はなんか好きな系統とかあるん?」

「私こういうの疎くて……全部怜に任せる」

「んじゃ、黒がベースな!」




怜のこういう強気な喋り方も、頼りになるところも、同じ性別なのにすごくカッコいいと思ってしまう。

一見派手な見た目をしているけれど、自分に似合うオシャレを貫いているんだろうなあ。

だって、こういう話をするときの怜は、バンドの話をするときと同じくらい生き生きしていて輝いてる。



「つーか、オマエらは邪魔だからどっか行ってろ」



怜はふたりにそう言ってひらひらと手を振った。やれやれと肩を落とす浩平と、「オッケー!」と嬉しそうな領。

私と怜が衣装を選んでいる間、領と浩平はショッピングビル内のファストフード店で待っていることになった。


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