初恋交響楽
「えっ…ああ、あるよ…?」

そう答えたわたしに、大国くんはクローゼットを開けた。

何着かあるスーツを吟味している大国くんに、
「あの、大国くん…?」

わたしは声をかけた。

「何?」

「…破っちゃったこと、怒らないの?」

わたしは大国くんに聞いた。

「えっ、何で?」

「だって、元はお父さんのスーツだったんだよ?

そのうえ、明日の会議で着て行くはずだった大切なスーツなのに…」

「まあ、大切だと言えば大切だけど…よし、これにしよう」

大国くんはスーツを決めたようだ。

「破っちゃったものは仕方がないし、西尾さんだってわざとやった訳じゃないんでしょ?」

「…ま、まあ」

わざとだよ、このヤロー。

だけども、何も返せない自分が情けない。
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