i -アイ-




煌びやかな衣装を身にまとった招待客が緩やかに流れ込んでくる。

上品な会話や笑い声。



今日の雰囲気に合わせて、あたしの接客の仕方も工夫する。



「ねえ、あれ藍人くんじゃない?」


そんな声もちらほら聞こえる。


前髪上げて眼鏡かけてるけどやっぱバレるよね。


そんな中、会場に緊張感が漂う。

その訳は、会場の入口を見ればすぐに分かる。



「榊の総帥が来たな?隣は息子さんの暁くんか」



榊亮と、息子の榊暁。


黒木尚也はそこそこ顔が広い。

自分の誕生パーティーを開くくらいだ。

榊の先代に世話になっていたらしく、亮さんにも好意的。

だからこのパーティー自体は危険かどうかは懸念していない。


まず最初は場が落ち着くのを見定めて、落ち着いたらシャンパンやフルーツ系のジュースを持ち、するすると人の間を通りながら声をかけられるのを待つ。



「お酒じゃないものを下さい」


後ろから声をかけられ、振り返り、顔を見て、


「かしこまりました。お持ちしたのはジンジャーエールとグレープフルーツジュースですが、それ以外も___」



「え?藍人?」



あ、バレた。



「どれがいい?」



変わらず笑顔で聞く。



「え?あ、ああ、ジンジャーエールで」



「こちらです」



滝谷だった。

紺のスーツ。似合うなぁ。





< 142 / 457 >

この作品をシェア

pagetop