i -アイ-
「たまたまね、移動中に君のことを目にして」
たまたま、ね。
あんなに厳重に守られながら?
「古い友人に似ているなと思って、気になったんだ」
「古い、友人ですか。」
相槌を打つ。
あたしが動揺を見せないと分かったのか、淡々と話を進める名雲碧。
「ああ。言われないかい?御庄グループの長男、御庄榛人に似ていると」
「御庄、榛人様ですか。……あっ、そう言えば先日違うお客様にも言われました」
遠回しに榊亮に言われた、ということ。
あたしの動向を見ているのなら、通じるよね。
「僕は彼と特別に仲が良くてね。残念ながら若くして亡くなってしまったんだが」
ずーっとあたしの目を見つめて話す。
「そう、だったんですか…」
悲しそうに見せる。
「まあ君が榛人に似ているのはただのきっかけの話であって、良かったら仲良くなれないかなと思ってね」
「……仲良く?」
笑ってしまいそうになった。
分かっている。
この人は普通じゃない。
というか、この人の本質が埋もれすぎていて、どれが本当か分からない。
もはや、本当がないんじゃないかというレベル。