i -アイ-
ニコッと笑い、
「俺、お客様対応したら寄るところあるのですぐ帰ります。ですから、先に帰っていて大丈夫ですよ?」
何が何だか、といった顔で春日井さんがあたしを見る。
「春日井さん」
言葉にはできないから。
「…っ!」
春日井さんの腕を引き、抱き締めた。
背中をポンポンと叩いて
「大丈夫だよ」
そう耳元で言って離れる。
ロッカーからスマホを取り出して、スタッフルームを出た。
……あ、春日井さん潔癖なんだった。
あの服捨てたりしないよね。
「誰かに引き止められたのかい?」
あらー、そんなに遅かった?
「お待たせしてしまい申し訳ございません。探すのに手間取ってしまって」
頭を下げれば
「君のこと、藍人と呼んでもいいかな」
ん?いきなりどうした。
「別に、構いませんが……」
「じゃあ、藍人。俺のことは碧でいいよ。敬語はやめてくれないか」
何故か少し、雰囲気が柔らかくなる。
何がきっかけで?
「碧、さん。……敬語は癖で」
「そうか。慣れたら好きな時に敬語はなくしていいからね」
連絡先は久遠藍人専用のスマホだから、ハッキングしたとしてもREIGNのやつらと友達の何人かだけ。
パスワードが必要なものの中には重要なものを入れていない。