王女ちゃんの執事3『き・eye』男の娘、はじめます。
「あ、加藤さん」
 電話で呼びだした人見知りくん背番号1。
 町田が、フェンス沿いに植えられた桜の木陰から顔を出す。
「よお! 悪いな、突然」
「いえ…」
 町田の場合は木陰で涼んでいたというより、登校してくるやつらからできうるかぎり離れていた、というべきなんだろうが。
 見た目がひょうひょうとしているせいで、おれの感謝する気がそがれるあたり、さっさと気づけや。
 ひとに恩を着せられるときは、もっと尊大に迷惑そうな顔をするんだよ。
 教えないけど。
「加藤さん。おはようございます。突然お電話いただくなんて驚きましたよ。でも音楽室の利用スケジュールとか、いったいなん…」
 そこで町田が目を丸くしたのは、おれの背中にへばりついてる虎に気づいたからだ。
 見えないものが見えると主張する男は、見えるものは見ねえ。
 見ないようにすることに慣れちまってるんだろうな。
 他人と関わりたくないから。
 それがわかっていて、他人を押しつけるおれ。
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