異常な君は、異常なモノが分からない

、実行


 大学への進学を機に、僕らは離れ離れになった。
 僕は地元に残り、彼女は都会へ。
 大学生活一年目は、ただひたすらに勉強をした。家ではパソコンに、外では携帯に繋げたイヤホンをつけて、一人暮らしを始めた彼女を映像と音で見守りながら、僕と彼女の未来を確固たるものにするための勉強をただ、ひたすらに。
 そうして迎えた、大学生活二年目。これまでのルーティンに新たな項目を加えた。彼女の祖母を訪ねる、ということを。
 一年目は、忙しかったのも勿論あるけれど、別れを切り出した手前、という気まずさもある。しかし彼女との未来のためには、彼女の祖母のことを避けて通るわけにはいかない。
 ただひたすらに勉強し、そうして得た知識をふんだんに使ってブレンドした茶葉を持って、月に一度、僕は彼女の祖母を訪ねた。「彼女とは別れてしまったけれど、あなたからもらった愛情を忘れたりはしていません」と、(みな)が騒ぎ立てる、微笑みとやらを浮かべて。
 そうするとその人は、にこにこと嬉しそうにして僕を自宅へと招き入れ、手土産に持ってきた茶葉でお茶をいれてくれていた。
 とはいえ僕は、それを飲んだことは一度もなかった。
 心臓発作をおこすなんて、御免(ごめん)(こうむ)りたいからね。
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