夕日を纏わば衷に綻ぶ
カウンターに座った彼の元に水を運ぶと、「ありがとうございます」と穏やかな声が紡いだ。
「注文いいですか?…えっと、自家製オレンジジュースを。すいません、子供っぽくて」
「…、いえ、いつも頼んでいらっしゃるの、お見かけしていたので。それにオレンジジュース、私も好きです」
「…そうですか。嬉しいです」
ふわり、彼が照れくさそうに笑った。
なんだか、彼の纏う空気は少しだけ苦手かもしれない。上手く言葉にできないけれど、なんとなく……心がふわふわしてしまうから。
彼が──天堂 夕陽がこの店でいつも自家製オレンジジュースを頼むことは知っていた。彼は、喫茶店のバイト仲間の間で有名だったのだ。
"いつも自家製オレンジジュースを頼む男の子が居る"
"落ち着いた雰囲気なのにギャップだよね"
"あと顔がすごく良い"
"あの顔なら年下も良いかもって思える"
など。同じ場所で働いていたらそれはそれは耳に入って来るもので、笠松さんが彼のことを認識していたのはその話を聞いていたからというのもあるのだろう。
ふわふわ、ゆらゆら、
こころがなんだか変な感じだ。
「…、オレンジジュースですね。少々お待ちください」
顔だけじゃない。彼の纏う雰囲気に、私は今 少しだけ───呑み込まれそうになっている。
軽く一礼をし、私は逃げるようにキッチンへと向かった。