カレシとお付き合い② 森君と杏珠



 泣きそうだった。

 (私は?
 ねぇ、私は? )

と心で思った。

 なんで私は「来いよ」じゃないの?
置いていく? この状況で?

 向き合うなら、私だってサエキさんに向き合うよ。
 ちゃんと向き合えるよ。

 一緒に問題解決だってしたい。
 それすら、私とは無理なんだと、無関係にされてる。

 わざわざ教室を2人で出て行って、廊下で森君がサエキさんと真剣に話しているのが見えた。

 なんかあったらしい2人のうち、サエキさんとだけ、話す、なんで⋯⋯ 。

 いつも優しい森君の笑顔。
でも、何にも言わない。
それこそ当たりさわりなく。

 私の欠点も注意しない、サエキさんには注意するのに。
 サエキさんと親しい事を私に言わない。
サエキさんともめてる? のかな? そんな事も全然言わない。

 話してほしいし、話さないと知る事も出来ない。

 どんな類の気持ちだとしても、その強さや濃さが、サエキさんとの方が上だよ。
親しいよ。

 私もあんな風に、ちゃんと私だけを見て、彼に真剣になってもらいたいんだ。
 ちゃんと向き合って欲しいんだ⋯⋯ 。

 彼に一番近い人になりたいんだ。
私の全部を知って向き合ってほしいんだ。
彼を一番知ってる人になりたいんだ。

 私の方が親しいのよ、ってサエキさんの言葉が、まさにこの状況なんだなって思った。

 悔しくて。悲しくなった。

 そうしてもらえない。そんな自分のダメさも。

 全員カノジョの1人じゃなくて、特別の1人じゃなきゃダメだ、苦しい。

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