契約結婚ですが、極上パイロットの溺愛が始まりました


 八月ももうすぐ終わり。

 残暑は相変わらず厳しいけれど、今日は少し気温も落ち着いている。加えて無風ではないから、外で比較的も過ごしやすい。

 お財布とスマートフォンだけを持って病院中庭に出ていくと、木陰になっているベンチ席に美鈴さんがひとり座っていた。

 膝の上で手帳らしきものを開き眺めている。


「美鈴さん!」


 近づいた距離から声をかけると、美鈴さんは顔を上げ「あ、来た来た」とにっこり笑顔を見せた。


「わ、カッコイイ、白衣だ」

「ごめんなさい、せっかく誘ってもらったのに、たいして時間なくて」

「ううん、私が勝手に来たんだもん。本当に大丈夫だった? 職場に連絡しちゃうとか、迷惑だったよね」

「ちょっと事情があってって説明したので、それは大丈夫です」


 でも〝桐生〟で私のことを呼び出されたのは正直焦った。

 契約結婚したことは職場には知らせていないし、変わらず〝宇佐美〟で働いているからだ。

 七央さんには旧姓のまま仕事は続けると知らせているけれど、美鈴さんにもそれは言ったほうがいいのかな……?

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