beautifull world
#1 prologue



あの雲の先に、いるの、かな。

呆然と立ち空をみて。
煙突の先の煙が空の色に混ざっていく瞬間、儚さと、悲しみの色でぐちゃぐちゃになる。

「…翠」
「大丈夫心配しないで」

そう隣にいた母に伝えた。


割と裕福な家庭に生まれ
割と裕福な育ちをしたけれど
小学校も中学校もまわりの友だちと一緒に公立へ進んだ。

だって身の丈知らずだし。
だって裕福なのはわたしではなく父であり、父が築いた会社だから。
ちゃんと地に足をつけて生きてく、そう、私の決めたこと。


まもなく会社が傾き、大学は諦めようかと思ったわたしの背中を押したのは父だった。

「翠なら大丈夫。なにかあっても翠にはナイトがいるんだよ。」

と。

「ナイトって、今時・・・」
「翠ももう少し大人になればわかるさ」



なんと浅はかな言葉だっただろうなんて今となっては思うけれど、わたしはその ”大丈夫” という言葉を鵜呑みにし、大学へ進学した。

わたしという原点を調べたくて、自分のわがままを押し通して学校へ通った。
両親から見れば、のちに私に会社を継がせたい思いも少なからずあっただろうから
経営学なんて学んで欲しかったのかもしれない。



でも・・・

父は病で倒れあっけなく他界した。
賢明な看護で疲れた母も今は病院のお世話になっている。




わたしに残されたのは莫大な借金。
父の会社の負債、従業員の未払いの給与。

わたしの見た雲の先には、雨雲に変わる前の空につながっていたんだろうか。



+++

Side 慧


「あれー?今日翠ちゃんいないのぉ?」
「おいおい、指名するような店じゃないだろ?」
「えーなんでー?何で今日いないの?」

昼のランチタイムがめちゃくちゃ忙しかったらしく、今日の夜のシフト入りの時間を変更したらしい。

いつもの時間。
いつもの場所。

僕はここで過ごす時間が1日の中で一番充実している。
他から見れば、ただ仕事サボってるんでしょ?的に見えるのかもしれない。
売れないモデルってそういうもんだ。
仕事なければバイトでもして食いつないでいくしかない。

でも僕には他にやることがある。


ここで過ごす時間を作ること。



「じゃ、待ってればくるんだね」
「お前さぁ」

彼女の笑顔は僕のこころの栄養だ。
待って、その笑顔をみれるのなら僕はいくらだって待つ。

いくらだって待つよ。
いくらだって。





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