やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない
*
「いい店だったな」
ホテルから駅へと向かいながら三浦部長が言った。
一月の半ばとなり通りの空気はその冷たさを厳しくしている。安物のコートとマフラーではとても防ぎきれない。吐く息が街灯の下で淡く色を成した。駅に着くまでに凍えてしまわないか心配だ。
ちらと三浦部長を見る。
彼と視線が重なった。
たぶん寒さで私の心も冷え切っていたのだろう。嫌悪感は覚えなかった。その代わりと言わんばかりに心音がとくんと高鳴る。
私は慌てて目を逸らした。薬局の入り口に置かれた看護士姿の白いウサギがピンク色の大きなハートを抱いている。これきっとバレンタイン仕様だと判じつつ私はさらに視線を動かす。