やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない
 レンタルビデオ店の窓ガラスに抱き合う男女のポスターが貼られていた。恋愛映画のポスターだとわかっているのに耳が熱くなる。

 とくんとくんと心臓が私の意識を煽ってきた。

 ちょっとやめてよ。

 どうして私がこんな男にときめいてるの?

 無理無理無理と呪文のように無言で繰り返す。お留守になった嫌悪感の帰りを待っていると三浦部長の声が降ってきた。

「ありがとうな、おかげでいい下見ができた」

 柔らかな声音が耳心地良く聞こえる。おーい、私の嫌悪感はどこへ行った?

 何だか自分が自分でないような気がして私は落ち着かなくなる。部長の顔をまともに見れそうにない。
 

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