ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。


 しっかり煮込んだカレーか。彼から夕飯のメニューを注文されるなんて初めてだ。材料があるか確認して早めに作り始めなくては。

 ハルさんは去り際にもう一度長谷の方を見た。


「君、名前は?」

「……長谷っすけど」

「長谷くんね。夏怜ちゃんのお友達。覚えておくよ」


 じゃあ、と言って車へ戻るハルさんの背中を、長谷は鋭い視線で睨み続けている。

 さて。ハルさんに会うという目的は思いがけず達成されてしまったわけだが……。


「で、見極められた?ハルさんのこと」


 私は残りのクレープを食べながら尋ねる。
 そういえばさっきハルさんに少しかじられたな。間接キスってやつになるのか。別に気にしないけど。


「ああよくわかったよ。あいつぜってー性格悪いわ」

「そう?」

「そーだよ……ったく、友達友達って……。んで顔が良いのもムカつく」

「うん。めちゃくちゃ美形だよね」


 私がうなずくと、長谷はどこか悲しそうな顔をしてため息をついた。


「お前が特に深い意味はなく言ってるのはわかってる」

「ん?」

「別に。じゃあ、俺帰るわ。早いけど目的は果たしたしな。お前もカレー作らなきゃなんねえんだろ?」

「そうだね。また大学で」

「おう」


 手を振る私に応じる長谷の顔は、いつもの明るく人懐っこいものに戻っていた。


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