ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
◇◆◇


「ただいま。あ、カレーの良い匂いがする」


 ハルさんは、公園で顔を合わせてから三時間後くらいにマンションへ帰ってきた。

 長谷と別れた後、私は冷蔵庫にカレールーがないことを知り、慌てて階に行ってから、リクエスト通りしっかり煮込んだカレーを作った。見たことないようなスパイスはいくつもあるが、まさか家政婦さんはこれらのスパイスからカレーを作ったりするのだろうか。


「冷凍庫にあった謎のシーフードミックスは使わせてもらいました。シーフードカレーです」

「いいね。いただきます」


 もしハルさんが普段スパイスから作ったカレーばかり食べているのだとしたら、ずいぶん庶民的な味だと思われないだろうか。まあどう思っていようが、彼は基本「美味しい」しか言わないからいいのだが。

 それにしても中辛のルーっというのは意外と辛味が強いな。そんなことを考えながら無言で食べていると、ハルさんが「ねえ」とどこか緊張気味の声を上げた。


「あのさ、今日夏怜ちゃんと一緒に公園にいた長谷くんは……友達、なんだよね?」


 私はスプーンを動かす手を止め、ハルさんの顔を見る。


「そうですよ。……まさかハルさんは、私に友達なんているはずないとか思ってます?」

「え⁉いや、そういうつもりで言ったわけじゃ」

「気にしなくていいですよ。昔から友達が少ないのは事実なので」

「だからそうじゃないって」


 ハルさんは強い口調で言ってから、息をついて左手を額に当てた。


「……ちょっと恋人っぽく見えたから」

「はい?」

「だから、君達がずいぶん親しそうにしてるから、少し恋人っぽいなって」


 私と長谷が恋人……。


「いや、それはないですよ」


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