ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。
◇◆◇


 今朝から降っていた雨が、少しずつ強くなってきた。

 長谷に「話がしたい」というメールを送ってから三日後。ようやく彼と話す時間がとれることになり、私は売店の休憩スペースで本を読みながら長谷が来るのを待っていた。

 外を眺めていると、傘を畳んでこちらに歩いてくる長谷の姿が見えた。


「悪い、待たせたか?」

「大丈夫」


 私は短く答えて本を閉じた。

 少し口が乾いているのを感じて、ペットボトルのお茶を一口含んで潤す。


「で」


 長谷は弱々しい笑みを浮かべて頬杖をついた。


「俺はフラれるのか?」

「……」

「いつものお前に輪をかけて暗いじゃん。あーあ、聞きたくねえなあ」

「……ごめん」


 私はそっと目を伏せてうつむく。でも、それではいけないと強い意志を持って長谷をまっすぐ見た。


「婚約者役だからとかそういうの抜きにしても、ハルさんのことが好きなんだって気が付いたの。だから……長谷の気持ちには応えられない。ごめん」

「……そっか。好き、なんだあいつのこと」

「うん……多分」

「ははっ、多分なのかよそこ」

「限りなく確信に近い多分」

「なんだよそれ」


 長谷は悲しそうにするでもなく、怒るでもなく、いつもと同じように楽しそうに笑っている。おかげで私も気持ちが少し軽くなった。


「好きだっつーのは本人に言ったのか?」

「言ってない。……今色々あって話せてなくて。というか、このまま言わないかも」

「は?何で?」

「それは……」


 ハルさんは今でも元婚約者の澪さんのことを想っているかもしれないから。橋岡さんが言っていたように、澪さんの方もハルさんのことを好きなのなら、私に入り込む隙はない。


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