わたしたちの好きなひと
「どうして? 関係ないことないでしょ。岡本だって……。みんなだって……。楽しみにしてるのに」
「…………」
 なんて、ずるいの。
 みんなのためって言い訳して。
 わたし結局、自分の気持ちは…隠した。
 (いやなやつ…)
 いやなやつだ、わたし。
「…………」
「…………」
 恭太の足音が消えた。
 しーんとした廊下に、とすっ! と響いたのは壁にもたれた音?
「みんな、かよ」
 ……え?
「ぜんぜん変わってねえな」
 振り向けない背中に恭太の声が近くなる。
 わたしに、話しかける、恭太の、声。
「おまえは、いっつもそうなんだ」
「…………」
 恭太、怒ってる。
「おまえって……おれの気持ちをわかろうとしたこと、あるのか?」
 どうして?
 どうして、そんなこと言うの。
 わたしはいつも、知りたかったよ。
 恭太の気持ち……、知りたいよ。
「あいつらのお遊びにつきあうほど、おれは善人じゃないぜ。迷惑だ」
 お…あそび?
 ちがう。そんなの――…
「ち…がう!」
 みんな恭太が好きなのに。
「ちがわねえよ。あいつらが好きなのは、追っかけしてる自分だろ。サッカーでも、おれでもない。だったら勝手にキャーキャ一言ってりゃいいんだ。おれを巻きこむな」
「……ひ…どいよ。みんな――、みんな、好きなのに……」
 恭太のこと、好きなのに。
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