わたしたちの好きなひと
「やだ。どこ行くの? 駅、こっちだよ」
ふたりっきりの昼食で、気分はすっかり中学時代にもどってしまった。
恭太がわたしのおうどんに七味唐辛子を振ったり。
わたしのお水を全部、飲んじゃったりするから。
ちょっぴりちがったのは、恭太のおごりだったこと。
恭太はもう15歳の少年じゃなかった。
「いいから、黙ってついてこいよ」
俺様なのは変わらないのにね。
さっさか先を行く恭太のあとについて、歩きだす。
「…っと国道176号は――。あっちだな」
歩幅も、ケータイのマップを読み取る早さも、かなわないけど。
ついてこいと言ってくれるから、わたしは自由に景色が楽しめる。
恭太もマップがもう頭に入ったのか、あちこち見回して楽しそうだ。
「彼岸のころなら曼殊沙華とか、きれいかもなぁ」
ちょろちょろと細くかわいらしい川の土手の上で、恭太が言った。
「…………」
足が止まってしまったのは許してもらいたい。
信じられない。
いまの…だれの言葉?
「なんだよ。おれがきれいとか言ったら、そんなにおかしいかよ」
「…ぃや、あの……」
「拓弥をきれいだとか言う、おまえのほうが全然! おかしいじゃん」
「え。掛居はきれいだよ」
「拓弥はおまえのこと、きれいだって言ってるぞ」
「――――ぇ」
「心だけな」
「うわ。ひっど――い」
「あはははは」
「蹴りおとすぞっ」
恭太は笑いながら逃げた。
本気で走られたら、追いつくわけないでしょ。
「待ちなさい! 恭太!」
ふたりっきりの昼食で、気分はすっかり中学時代にもどってしまった。
恭太がわたしのおうどんに七味唐辛子を振ったり。
わたしのお水を全部、飲んじゃったりするから。
ちょっぴりちがったのは、恭太のおごりだったこと。
恭太はもう15歳の少年じゃなかった。
「いいから、黙ってついてこいよ」
俺様なのは変わらないのにね。
さっさか先を行く恭太のあとについて、歩きだす。
「…っと国道176号は――。あっちだな」
歩幅も、ケータイのマップを読み取る早さも、かなわないけど。
ついてこいと言ってくれるから、わたしは自由に景色が楽しめる。
恭太もマップがもう頭に入ったのか、あちこち見回して楽しそうだ。
「彼岸のころなら曼殊沙華とか、きれいかもなぁ」
ちょろちょろと細くかわいらしい川の土手の上で、恭太が言った。
「…………」
足が止まってしまったのは許してもらいたい。
信じられない。
いまの…だれの言葉?
「なんだよ。おれがきれいとか言ったら、そんなにおかしいかよ」
「…ぃや、あの……」
「拓弥をきれいだとか言う、おまえのほうが全然! おかしいじゃん」
「え。掛居はきれいだよ」
「拓弥はおまえのこと、きれいだって言ってるぞ」
「――――ぇ」
「心だけな」
「うわ。ひっど――い」
「あはははは」
「蹴りおとすぞっ」
恭太は笑いながら逃げた。
本気で走られたら、追いつくわけないでしょ。
「待ちなさい! 恭太!」