わたしたちの好きなひと
 窓の外の騒ぎに目覚ましアラームが鳴る前に目覚めて。
 それほどの騒ぎのなか、みんな熟睡していることに、平和ってすばらしい…なんて幸せさえ感じていたのに。
 障子窓をそっと開いてみて驚愕(きょうがく)
 旅館の正面玄関で、先生たちがそろってぺこぺこと頭を下げていた。
 半纏を着たおじさんたちが、ほうきと(ちり)取りを持ってロータリー中に散っている。
 ロータリーは5階の窓からのぞいてもわかる、雨も降っていないのにびしょ濡れ。
 きれいな歓迎旗も濡れているのか、そよともはためかない。


 理由は2年B組の、わたしとプーちゃん以外の全員が知っていた。
 なにしろ朝食前にはじまった犯人探しとお説教に、だれひとり文句を言わず、神妙な顔で笑いを堪えていたから。



 翌年からうちの中学は、その旅館を使わせてもらえなくなったらしい。
 いったい、どこのばかが、旅館の顔ともいえる正面ロータリーで、真夜中に花火をする?
 実際は、かなり離れた場所で観光客のお姉さんたちと楽しんで。
 お姉さんたちの分も持ち帰った残骸を、ロータリーに点々とばらまいたって恭太はしらっと白状した。
 きちんと火の管理はいたしましたの合図に、水もまいたって。
『だって湖に出ちゃだめなんだもんな』って掛居が言って。
『そしたら安全な所って、どこよなぁ』って恭太が笑い。
 森ちゃん先生が胃潰瘍になったのは、たしかあのころだ。

 そして、わたしたちが、なんとなく3人になったのも。
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