わたしたちの好きなひと
「Any questions so far?」
 教師より発音よくわたしに首を傾げてみせるのは掛居。
「失礼ね。みんなに説明したのはわたしです。お忘れ?」
「ふふ。じゃ、おれたちも相談しようか、シューコ」
「……はぁ……」
 ため息だ。
 
  なぁ、交通費も小遣いから出すの?
  大阪城でいいよ、もう。ほか知らないし。
  奈良とか行けるんじゃないの? 近鉄で。
  もっとくわしい地図、ほしいよねぇ。

 勝手に話しだす生徒たちに、質問を無視されたかたちのウォーリーもため息。
「やれやれ……。ま、質問がないのは結構なことです。じゃ稲垣さん、あとはよろしく」
 はーい。
 掛居に責任を押しつけないあたり、さすがですね、先生。
 このあと居眠りしているあいだに、なにか問題が起きたら、わたしのほうが責めやすいですもんね。
 教室のすみの定位置に置かれた椅子に、ウォーリーが腰かけるまで見送りながら、あきらかに掛居の誘いを無視したわたしに掛居が肩をすくめる。
「じゃな。おれは基本、おまえの行きたいところでいいから」
 教壇をおりて進むのは窓際の最後列、恭太の席だ。
 そんなところに、わたしがついて行けるわけがないのに。
「ちょっと稲垣! 早くいらっしゃい。Hurry up!」
 教壇でもたもたしていたわたしを呼ぶのは岡本。
 こちらもウォーリーより美しい発音をひけらかすのは、たぶん掛居とわたしの会話が聞こえていたんだろう。

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