わたしたちの好きなひと
「だれよ、いまの。もう一度言ってごらん」
「うっひゃー。稲垣こえぇ。完璧かかあ天下だな」
「なんだってえ」
 掛居の手を振り払って立ち上がる。
「こらこらシューコ。せっかくウォーリーが寝てるのに」
 頭にぱふっとのせられたのは掛居の手だ。
「掛居、言わせとくの?」
「いいじゃん。実際デートだし」
「……な」

  きゃーっ。言ったぁぁぁ。
  掛居おまえ、ちっとは照れろよ。
  あー、やってらんね。

 とたんに騒がしくなった面々に、掛居が居眠りしているウォーリーを指さして、人差し指を唇に当てて見せる。
 それだけで静まる掛居マジック。
 ぶぜんとするわたしの横で、掛居はのんきにズボンのポケットに両手をつっこんだ。
「ま、それにしたって、当面は地区予選一直線だよな、岡本くんも」
 わたしのスカートをにぎって、岡本がぶんぶんうなずいている。
 わたし……。
 (い…や、だよ)
 わたし――…。
「行かないひとと計画なんて立てたって、しようがないよ」
 (ごめんね)

 キーン コーン カーン コーン

 救いのチャイム。
「稲垣!」
 岡本の手を振り払って。
 ジグザグに椅子の間を廊下にいそぎながら、わたしが気にしてるのは窓際の席。
 わたし…信じてる。
 絶対、勝つよね。
 わたしは、恭太の努力…信じるよ。

 恭太を信じられなくて、恭太にきらわれちゃったわたし。
 もう友だちにもしてもらえないけど。
 今度こそ……、
 今度こそ信じることだけはやめないよ。
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