わたしたちの好きなひと
「勉強に関係あるとかないとかは、ないんじゃない?」
「う。それはそうだけどさぁ。受験勉強ってそもそも勉強じゃなくない?」
「へー。シューコ、わりとまともな思考すんのな」
「わりとって……」
 まぁいいや。
「遅いね、恭太」
 恭太に行かせたのは東口の駅ビルにあるアイスクリーム屋さん。
 歩いて5分、買い物に並んでも15分?
 ケータイのデジタル時計だとあまり感じないけど。
 腕時計の針なら90度も針が進めばイライラする。
「シューコが待ってるのは恭太? アイス?」
「アイス!」
「即答かい」
 掛居が笑う。
 わたしはもう汗をかきはじめてるのに、掛居は涼し気だ。
 なにがちがうのかしらね。
「んもう、暑い! あいつ…まさか、ひとの分も食べちゃってるんじゃないでしょうね」
「そこまで信用ないか、恭は」
「そうじゃなかったらイタズラよ。なんか企んでる。絶対だ」
「ひどい言われようだな」
「修学旅行の騒動を忘れたの?」
 迷惑をこうむったほうは一生! 忘れないからね。
「そうだ! お持ち帰りに入れてくれるドライアイス。あれ見てなにか企んでるのよ、絶対だ絶対!」
 興奮してブランコから立ち上がったとたん、角を曲がって現れた人影。
 下げた両腕の掌に握った小さな容器から、もわもわと白い煙を立ち昇らせて大股に歩いてくる。
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