わたしたちの好きなひと
 先に立ってビルの階段をのぼる掛居の背中に、わたしは聞きたかった。
 恭太にもそう言った?
 きっと――言わなかったよね。
 ただ、受けるって言ったんだ。
 だからなんだよね。
 あのサッカーばかの恭太が、夏期講習に参加するなんて。
 すごいね、掛居。
 友だちってすごい。
 わたしも掛居の友だちに、なれるかな?
 いっしょにいたいって……。
 もっといっしょにいようぜって……。
 こんなに思わせてくれながら、絶対自分のレベルを下げない掛居の強さはやさしさだ。
 わたしは――、ただ、さよならだけを考えていたけど。
 恭太は、黙ってさよならなんて、言わないつもりなんだよね。
 掛居も……。
 そんな恭太を知ってるから言ったんでしょ?
 追いついてこいって。
 心のなかで言ったんだよね。
 (わかるよ)
 ばかなわたしには発破をかけてくれてさ。
 もちろん、ちがう高校に進んだって友だちは友だちだけど。
 うんとテッペンにいる掛居には、これが最後の、わたしたちへのプレゼントなのかもしれない。

 がんばらなくっちゃ。

 それで掛居が開成に行っちゃっても。
 わたしたちは、笑って『またね』って言えるもん。
 掛居に負けないくらい。
 掛居に追いつけるように。
 思いっきりがんばった、そのあとなら……。
 ありがとう、掛居。
 わたし、がんばるよ。
 全力でがんばる。

 * * * 

 あの熱い夏が。
 男とか女とか。
 そんなことを気にせずに。
 だれかと友だちになれた最後の夏だった。
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