わたしたちの好きなひと
 白い背中がどんどん、どんどん遠ざかる。
「あいつ、見たんだろ、シューコの志願書」
 あっ。
 そう、か……。
「ランクなんか気にすることないのに……」
 つぶやいたのを掛居に聞かれた。
「おまえねぇ……。そうやって恭太をばかにするの、やめなさいよ。おれから見たら――…」
「ごめん……」
 わたしたちは別れていく。
 それぞれが、それぞれ一所懸命に目指す先に。
 わたしは恭太と、掛居と、もっともっといっしょにいたいけど。
 この先は、だれかについていける場所じゃない。
 自分で選ぶ場所だから。
 わたし、応援してるよ恭太。
 恭太の一直線な大好き、すてきだと思う。
 尊敬もしてるんだ。

 掛居はもうすっかり夜の色になってしまった空を見上げている。
「はじまるんだな」
「うん……」
 お別れのためのスタート。
 さよならの始まり。
 恭太が一番先にダッシユするとは思わなかったけど。
 ここから先は、お互い、がんばればがんばるほど離れていく。
「まだ、4カ月、ある」
 うん。
 さみしくなったわたしの代わりに掛居がくれたエール。
 人造人間恭太。
 がんばれ。
 わたしも、がんばるよ。


「ところで――さっき、なににお礼を言われてたの?」
 分かれ道で、ふと質問。
 掛居は笑って首を振った。
「シューコは、受験が終わるまで、なにも考えないほうがいい」
 いつもは、掛居のその、なんでもわかってるみたいなゴッドスマイルがでると、めちゃくちゃ頭にきたくせに。
 そのときわたしは、なぜだか素直に聞くほうがいい気がして、ただうなずいた。

 それが最初の予感…だったかもしれない。
< 82 / 184 >

この作品をシェア

pagetop