わたしたちの好きなひと
 わたしは、ちがうことを知っているから困ってしまう。
「ねぇ、お地蔵さん」
 むっつも顔があって。むっつも身体があったら。
「生きていくのはさぞかし、ラクでしょ…ねぇ」
 みんなにちがう顔をしておけばいいんだものね。
 それとも――自分6人でケンカしちゃうのかな?
「わたしは…ひとりなのにな」
 毎日ケンカだ。
 恭太のことばかり考えるわたしと。
 恭太のことを思うわたし。
 (恭太……)
 考えれば飛んでいきたい。
 (でも…)
 恭太の身になってみたら、わたしなんて視界に入ったらいけない。
 自分がふった女の子なんて、じゃまなだけだもんね。
「…………」
 竹の葉が風で揺れるとザザーっと音がする。
 (恭太……)
 楽しんでるかな。
 掛居は恭太につききりで全然かまってくれないし。
 岡本はなんだか機嫌が悪いし。
 団体行動の日程でも結局、明日の自由行動をいっしょにする仲良しは、自然に集まるから。
「わたし、つまんなーい」
 どのグループについていっても、おじゃま虫な気がするしなぁ。

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