御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「そう、ですね。なら私……明臣さんと結婚します」

 明臣さんは虚を衝かれた顔になり、わずかに不信感を滲ませて顔を歪めた。

「突然、どうしたんだ?」

 もうちょっと喜んでくれるかと思ったのは、自惚れだったのかもしれない。私は彼に笑顔を向けた。

「突然ではなく、ずっと考えていましたよ。そしてこの二日間あなたと一緒に過ごして、芽衣を大事にして、あの子のことをしっかり考えてくれているのが伝わりました」

 嘘じゃない。本当だ。でも、そうやって必死に言い聞かせている自分がいる。それを悟られたくなくて、私は一度唇を噛みしめた。

「……私と結婚したこと、明臣さんに後悔させないように頑張りますから」

 私の発言に彼は目を丸くする。

 嫌味に聞こえた? 少なくとも朝の発言を意識してしまったのは事実だ。

「早希」

「こ、この話はまた改めてしましょう。明臣さんもお疲れでしょうし、ゆっくり休んでください。本当にありがとうございました」

 早口で捲し立て、半ば追い出す形で明臣さんと別れる。

 失礼だった? あがってコーヒーでも出すべきだった?

 自己嫌悪に見舞われ、私はその場にうずくまった。胸が張り裂けそうなのは、やっぱりまだ明臣さんが好きだからなのだと自覚する。

 違う、本当は彼への想いが消えたことなんてなかった。

 ああ、もう。

 私は身をぎゅっと縮めた。会わなければ、忘れられると思ったのに。いつかきっと芽衣の父親という認識だけになる日がくると信じていたのに。

 私はこれからもずっと片思いする羽目になるんだ。結婚して誰よりもそばにいる彼に。
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