御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 今日は、まとまって家事をする予定だった。買い物をして作り置き、部屋の掃除に芽衣の布団を洗って、干して……。

 予定と現実の差に目頭が熱くなる。自分で自分を追い込んだって意味がないとわかっているのに、心が弱っているからか責める気持ちを止められない。

 仕事も中途半端で家のことも、芽衣のことも、全然ちゃんとできていない。

 いい奥さんにならないといけないのに。いいお母さんでいないと……。

『でも優秀な秘書だったあなたでしたらぴったりじゃないでしょうか』

『奥さんが元秘書だと仕事に理解があって羨ましいよ。さすがだ、いい人を選んだね』

 なら優秀じゃない私は?

『相変わらず、早希は頭がいいな』

 認められるのが嬉しい反面、抱き続けてきた漠然とした不安の正体。だから私は明臣さんの秘書を辞める決意をした。

 妊娠を知られたくなかっただけじゃない。怖かったから。いらないって言われるのが。彼の希望に応えられず、失望されるのが。

 今だってそう。

『……後悔しているんだ、ずっと』

「早希」

 次の瞬間、名前を呼ばれて覚醒する。目の前には明臣さんの心配そうな顔があり、一瞬夢か現実かわからなかった。

「体調は?」

 静かに問われ、頭を撫でられる。そこで私はとっさに上半身を起こした。どうやらいつのまにか眠ってしまっていたらしい。

 芽衣のお迎えの時間は? そもそもどうして彼がここに?
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