御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
 とにかくあの手この手で気を持ち直させ、ひとまず外に出て散歩しようと思ったもののベビーカーに乗ったのはほんの少しで、あとはずっと抱っこをせがまれていたそうだ。

 まだ芽衣の体重は十キロ弱だけれど長時間抱き続けるのは男の人とはいえ大変だ。

 合間に水分を与えたり、オムツを換えたりしたものの、おやつがなくなるともっと欲しいと泣かれ、寝かせたというよりは、最後は泣き疲れて眠ったのだと聞かされる。

「世の母親は偉大だな。改めて思い知ったよ。仕事は話が通じる大人相手だが、話が通じず世話が必要な相手と向き合うのがここまで大変とは……」

 冷静な分析の仕方が明臣さんらしい。

「なんとかするとは言ったが情けないな」

「そんなことありませんよ。十分です!……すみません、大変でしたね」

「謝らなくていい。父親だから当然なんだ。むしろ今までなにもしなさすぎたツケだな」

 申し訳なくなり謝罪すると明臣さんはすかさず否定する。そして、私をまっすぐに見つめてきた。

「早希は、毎日ずっとひとりで頑張っていたんだな。尊敬するよ、いつもありがとう」

 明臣さんの言葉になんだか泣きそうになる。母親だから当たり前だと自分に言い聞かせて乗り越えてきた部分もある。

 でも常に余裕をもって子育てできるわけじゃない。つらくて投げ出したいときもあるけれど、明臣さんにそんなふうに言ってもらえて報われる気がした。
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