御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「あの、明臣さん。よかったら今度は私が芽衣を見ているので、行きたいところがあるなら出かけてくださいね」

 私はゆったりひとりで過ごした分、明臣さんはここにきて芽衣の相手しかしていない。せっかくこんなに色々揃っているホテルに来たのだから、彼だって……。

「早希」

 声がかかり、彼のほうを見るとなぜか小さく手招きされた。首を傾げつつおとなしく明臣さんの元に歩み寄る。そばまで行くと、不意に右手を取られた。

「俺は、早希と芽衣と過ごすためにここに来たんだ」

 座っているので彼は私を見上げる形になる。射抜くような眼差しを向けられ、逃げるかのごとくふいっと視線を逸らす。続けて私はわざとらしく明るい声で提案する。

「なら、お茶でも淹れましょうか?」

 部屋にはミニキッチンがある。さっさと実行するため足を動かそうとすると、掴まれていた手を勢いよく引かれた。

「わっ」

 よろけそうになるのを回避しようと、とっさにソファの背もたれに手をつく。ところが気づけばソファに膝立ちし、明臣さんを正面から見下ろす体勢になっていた。

 さっきよりも距離が格段に近い。反射的に離れようとしたら腰に回された彼の手に阻まれる。

「お茶は芽衣が起きたら、一緒にカフェに出かけたらいい」

「で、ですが」

 動揺を隠しきれない私とは違い、明臣さんは平然と言ってのける。とにかくこの体勢をなんとかしようと試みるが、逆に彼の腕に力が入りさらに引き寄せられる。
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