御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
『相手と家柄や育った環境が似ているのはいい』

 ズキズキと痛む胸を、芽衣を抱きしめて誤魔化そうとする。彼女と比べること自体おこがましい。

 そのとき頭に温もりを感じる。いつのまにかそばまでやってきた明臣さんが私の頭に手を置いたのだ。

「タイミングが悪かったか? 色々と粘られたが、なんとか解放してもらって急いで戻って来たんだ」

 日比野さんの叔父さんはずいぶんと明臣さんを気に入っていたみたいだし、ヒビノ工業とは付き合いが長い。戻ってきてよかったんだろうか。

「……気を使わせてしまってすみません」

「早希が謝る必要はない。俺は早希と芽衣と過ごすためにここに来たんだ。むしろ最初にはっきり断らなくて悪かった」

 明臣さんの言葉で、少しだけ心が軽くなる。私は小さく首を横に振り、おもむろに立ち上がった。

「とにかく芽衣をお風呂に入れてきますね」

 その間、明臣さんには休んでいてもらおう。

「なにか手伝うことは?」

「え?」 

 目を丸くする私に明臣さんは苦笑する。

「ゆっくり風呂に入りたいって言ってただろ? 本当は俺が芽衣を入れてやれたらいいんだが」

『ゆっくり……お風呂に入りたいんです』

 私が以前、口にした希望を律儀に覚えていてくれたんだ。

「い、いいえ。あの、じゃぁ、体を拭いたら呼ぶので、芽衣をこちらに運んで着替えさせてもらっていいですか? もう着替えは準備していますから」

 明臣さんに芽衣を託したら、私はもう一度お風呂に戻ってもいいかな?

 思いついた妥協案を申し出ると明臣さんは優しく笑った。
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