御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「わかった。芽衣は任せて、早希は風呂でのんびり過ごしたらいい」

 明臣さんにとっては日比野さんたちと過ごした方がよっぽど有意義だったんじゃないのかな。仕事がなによりも大切な人なのに。

 口には出さずに彼をうかがうと視線がぶつかる。続けてさりげなく唇が重ねられた。

「な、なんですか?」

 さすがにあからさまに狼狽するほどではないものの驚いたのは事実だ。

「いや、今日は早希に触れていなかったから」

 明臣さんの冷静な回答に私は眉根を寄せる。私に抱っこされている芽衣はきょとんとしていた。

「そんな。義務じゃないんですから」

 腹が立つというより呆れてしまう。本当に真面目というかなんというか。愛し合うという言葉を別の意味で捉えすぎなのでは。

「もちろん。俺が触れたくてたまらないだけだ」

 自分の中で結論づけていたものを明臣さんはあっさりとひっくり返す。目をぱちくりさせる私の頬を彼は撫で、その手をゆるやかに首元に滑らされる

「なかなか魅力的な格好で出迎えられたのもあって」

 魅惑的に微笑む彼の指摘に今の自分の格好を思い出す。

「だから、これは」

「あー」

 そのとき芽衣が、明臣さんの方に腕を伸ばす。今の体勢に飽きたのか、抱っこしてくれると思っているのか。そこで私は我に返った。

「とにかく芽衣をお風呂に入れてきます!」

「そうだった。芽衣を待たせていたな」

 彼は芽衣の頭をそっと撫でる。芽衣もどこか嬉しそうで、再度明臣さんに芽衣のことをお願いし、私はバスルームに向かった。
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