御曹司は懐妊秘書に独占欲を注ぎ込む
「よしよし。芽衣、大丈夫。お母さんがいるからね」

 肩口で顔をこすりつけるように左右に動かすので、やはり眠いみたいだ。ゆっくりとソファに腰を下ろし、今度は横抱きにして授乳する。

 目を閉じて必死におっぱいを飲む芽衣の顔を見てそっと頭を撫でた。

 芽衣は今日、楽しかったのかな?

 このホテルで過ごせたことというより明臣さん……お父さんと一緒にいられて。

 私は小さくため息を漏らす。明臣さんのおかげで今日は髪を切れたし、お風呂にゆっくり浸かれた。

 楕円形の広いバスタブは足を伸ばしてもまだ余裕があるほどで、ひとりでバスタイムを楽しんだのはいつぶりだろう。

 口元ギリギリまでお湯に浸かり、一歩気を緩めると沈んでしまいそうな状況で私は天井を眺めながらぼーっと過していた。

 こんなふうになにも考えずにぼんやりすることさえ久しぶりで、自然と瞼が重くなるほどに心地いい。眠ってしまいたいのをぐっと我慢する。

 バスルームから出ると着替え終えた芽衣が明臣さんの膝にちょこんと座っていた。その姿はまさに親子で、彼も芽衣もリラックスしているように思えた。

 芽衣もお父さんと一緒に過ごせた方がいいよね。

 どういうわけか胸がチクリと痛む。芽衣がほぼ夢の中に旅立ってしまったのを確認し、ガウンを整え直す。

 さすがにすぐに移動させると起きそうなので、もうしばらく安定して眠るまでこのままでいよう。
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