もしも世界が終わるなら
「俺が椎名穂高だって証明するよ。ふたりの秘密の場所へ行こう」
秘密の場所。それはいつもふたりで過ごしていた、誰も知らない小高い丘の上。
先導するように前を歩く彼は、姿形はまるで違う。そんな彼の中にしいちゃんの面影を探しながら、未だ警戒を解けないまま後をついて歩いた。
なだらかな坂道から急斜面に差し掛かり、手を差し出される。
「まずは荷物を」
「ありがとう」
荷物のキャスターは田舎の整備しきれていない道で転がされ、半分壊れかけている。言葉に甘え、そのキャリーバッグを彼に渡す。
荷物を運び上げてから、再び手を差し出される。昔はなんなく登った場所も、今の身軽とは言い難い体ではひとりで行けそうにない。
「ありがとう」
素直に差し出された手に支えられ、グッと足を踏み出す。長時間歩くつもりで履いてきた黒色のスニーカーにも力が込められ、折れ曲がった筋が入る。