もしも世界が終わるなら
「お兄さん……」
しいちゃんにお兄さんがいただろうか。その程度にしか知らなかった子ども時代。常に一緒にいたはずなのに、重要なことはなにも見ていなかったのかもしれないと思い知らされる。
「兄貴に靡いている姿でも、見せたかったんじゃないかな。思い出を綺麗事で話している俺が、ずっと気に入らないみたいだったから」
目の前の彼がしいちゃんなのなら、彼の方が劇的な変貌を遂げている。
全体的にスラッとはしているものの、背は高く声は低い。外見だけを言えば、お兄さんだという先ほどの人の方が、しいちゃんらしいとさえ思えるほどに。
なにを信じていいのか、もうわからなくなっていた。助けられるまま、助けられた。今度こそ、この人が本物の『しいちゃん』だという確証はない。
「隆成は、俺がちいちゃんをいつまでも待っているのを知っていたから」
兄を名前で呼ぶ彼に違和感を覚えつつ、ほかの一文の方が心に止まる。
「待っていて、くれたんだね」
言葉の端を捕まえて質問を向けると、表情が和らいで目を細められる。
「約束したじゃないか。『大人になったら会おう』って。毎年、まだ大人になれていないのかな、俺。って、少しだけへこんでた」
三十を間近に控えた自分たちが、まだ大人になれていないというのはおかしな話だ。けれど同じような気持ちで毎日を過ごしていたのだと思うと、胸がじんわりと温かくなる。