もしも世界が終わるなら

 彼の横顔を盗み見る。あの頃と劇的に変わってしまった風貌は、確かに男性だ。

 離れ離れになった中学二年生。その頃は、大人へと変貌を遂げる始まりの頃だったように思う。

 ほとんど同じだった背も、少ししいちゃんの方が高くなった。頼りない体つきは伸びていく背に追いつけず、一時期はますます細く見えた。

 大人になりきれない不安定な彼は、余計に儚げだった。

 あのままずっと一緒にいたら、どうなっていたのだろう。

 今は今だけは、あの頃の思い出に浸っていたい。

 頬を撫でる風は優しく、言葉を交わさなくとも隣に座るしいちゃんは穏やかで。都会の喧騒の中では味わえない、のんびりとした時間を噛み締める。

 しばらく懐かしい風景を眺めたあと、おもむろに腰を上げる。

「そろそろ旅館に行かないと」

 名残惜しい気持ちになりながらも、別れを告げる。

「そっか。うん。そうだね」

< 18 / 61 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop