もしも世界が終わるなら
「母さんは、俺とちいちゃんを仲良くさせて結婚でもすれば、宗一郎さんが泡を食うだろうと考えていたみたいなんだ。そうなったら兄妹だから無理だと諭して、駆け落ちでもさせたかったんじゃないかな」
まさか環さんから、けしかけていただなんて。私へ向ける鋭い眼差しを思い出し、ぶるりと体を震わせる。
しいちゃんは、ぽつりと本音をこぼす。
「怖い人だった」
やはり作られた平穏だった。見せ掛けの幸せに溺れる前に、母はこの地から離れる決意をしたのだろうか。その選択は正しかったのだろう。砂の上の幸せは、いつか崩れてしまうから。
「俺、母さんに言われたからじゃない。ちいちゃんのことを、本当に大切だと心から思っていて……」
迷いのない清らかな眼差しに、私も応える。
「ありがとう。私もしいちゃんは、いつまでも大切な友達だよ」
目を伏せ「そっか。うん。ありがとう」と優しくつぶやいた声は風に乗って、黄金色に輝く棚田を撫でていく。