もしも世界が終わるなら

「千生のお父さんは、宗一郎さんではないの」

 戸籍謄本に書かれた真実に向かい、話は進む。

「進次郎という人」

 書類の父の欄に記載されていた名前だ。

「ごめんね。驚くよね」

「ううん。戸籍を見る機会があって、知っていたから。私こそ黙っていてごめんなさい」

 息を飲む音が聞こえ、「そうなの。それじゃずいぶん悩ませてしまったわね」とこちらが心苦しくなる声が届く。

「ううん。今、こうして話してくれているじゃない」

 きっと私自身、覚悟を決めて過去と向き合った今だからこそ、聞ける内容なのだ。今が聞く最良のときなのだと、心の底から思った。

「進次郎さんと宗一郎さんは学生時代からの親友で、進次郎さんと私は宗一郎さんに結婚の報告をしに行ったわ」

 宗一郎と進次郎。その名前から、ふたりはもしかしたら兄弟なのかもしれないと思ったが、それは思い過ごしだったようだ。

 私は相槌を挟んで、母の話を先へと促す。
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