今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
「だいぶよくなったじゃない」

私が書いた記事の校正紙をめくりながら、百合根さんが満足そうに頷く。

校正紙とは、レイアウトに写真や記事を流し込んだもの。この段階ならまだ記事の修正は可能だ。

「俯瞰的に捉えつつも、個性もちゃんと出せている。いい記事ね」

退職直前にチェックしてもらった原稿は、ズタボロだった。感情の動線がうまくコントロールできていないとか、終着点がわからないとか。

だから百合根さんが出産を終えたら、原稿を見てもらいたいとずっと考えていた。リベンジである。

今日は出産祝いのスタイのセットと、百合根さんの好きなオーガニックの野菜ケーキ、そして出来立てほやほやの校正紙を持って彼女のもとを訪れた。

「白雪がこの取材対象をリスペクトしているのが伝わってくる。この医師をどう見せたいのかがはっきりしているわ」

報道など事実性が問われる記事は、できる限り主観を抜いて書く。

だが、私の担当する『仕事に恋するメンズ』という記事は、あくまでエンターテインメント。ノンフィクションドラマを描いているに近い。

起承転結があり、読者にどう感じてもらいたいかを考えながら書くことができる。
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