今夜、妊娠したら結婚します~エリート外科医は懐妊婚を所望する~
そんな彼と、体の関係――をはるかに飛び越えて、身ごもってしまうだなんて夢にも思わなかった。

「あの、西園寺(さいおんじ)先生……」

控えめに声をかけると、彼はにっこりと微笑んで「どうしたの?」と気遣ってくれた。

一見優しそうに見えるけれど、その笑顔すら偽りではないかと疑ってしまう。

交際期間ゼロ日の私たちの間に愛がないのは間違いない。

「お話があるんですが……」

当初の目的だった『面倒な縁談をどうにかしたい』というミッションはクリアしたわけだから、いい加減、私たちの関係についてはっきりさせておかなくては。

このまま偽の恋人を演じ続けるわけにもいかない。

「車の中で聞くよ。風邪を引いては大変だ」

駐車場に辿り着くと、彼は助手席のドアを開けてくれた。

自然なエスコート。そのスマートさがうれしい反面、ちょっぴり切なくもなる。女性のお相手は手慣れているのだろう。

彼も運転席へ乗り込み、「シートベルトきつくない?」なんて気にかけてくれる。

私は曖昧に返事をしながらも、どう話を切り出そうか考えあぐねていた。

「それで、話って?」
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