夏空、蝶々結び。
「いちいち、それを持ち出さないで」
無理に目を閉じる。
「あーんな可愛い下着、持ち腐れですねー、かなえちゃん。……寂しいオンナ」
「だから、蒸し返さない! 」
(……もう何日経ったんだっけ)
ゴンが現れたあの日が、随分昔のことみたいだ。
こうしてどうにか目を瞑れば、それも考えなくて済む気がした。
(そういや、ゴンが来てから……そんな暇もないや)
急に充実し始めたとは言わないが、怒ったり傷ついたり、泣いたり――何かが胸につかえたようで苦しくなったり――わりと忙しいのだ。
「かなえちゃん」
ふと浮かんだことを白状せずに済むのなら、本当に眠ってしまおうか。
「早く治せよ。……こじらせってやつ」
そんな呟きも、ずっと起きたままのゴンのことも。
気づいていないのを装うには、狸寝入りの他になかった。
そして夢にしてしまうには、この言葉が必要だ。
「うるさい、寝るの。……おやすみなさい、ゴン」
本当は一方的にすぎないかもしれない挨拶を交わすと、ゴンがふっと息を吐いた。
そして、しばらくの時間が流れる。
安物の時計の針が立てる音に紛れ、何か聞こえた気がした。
それはあの朝と同じく、ひどくひどく――優しかった。